Robert Scobleはマイクロソフト社の一社員であるとともに、マイクロソフト社から"Technical evangelist"(技術伝道師)という公式の称号を与えられている。彼のブログは世界中のコンピューターオタクから「熱狂的」に読まれていて、今や有名人である。それだけでなく、慣例的なPR活動では成しえなかったマイクロソフトの悪いイメージを一気に押し上げた人物でもある。
Scoble氏はブログを4年前にスタートした。当時、彼はシリコンバレーにあるNEC支社でタブレットPCとノートPCを専門とする仕事に就いていた。そして、商品に不満を持っている顧客たちと対話をする機会をもつためにブログを開設、それが顧客達に支持を得た。
これに目をつけたのがマイクロソフト社の啓蒙ディレクター(director of platform evangelism)であるLenn Pryor氏。彼が飛行機に乗った際、不安でパイロットに面会を求めたという。そこでパイロットから「搭乗席からチャンネル9をつけてみてください」と言われ、聞いてみたところ、パイロット同士のやり取りが聞こえてきたという。そこには嘘偽りの無い人間同士の会話があり、不安が一切無くなった。そこでマイクロソフト社にもチャンネル9を作り、社員によるblogを公開しようと思いつき、Scoble氏をスカウトした、というわけである。
Scoble氏のブログには、例えば「妻がアメリカ市民になった」、「チーズコンテストで勝つ方法」などプライベートで些細なことも書かれている。しかし彼は「“舞台裏”を見せる」ことが重要だと述べている。
また彼はときにはマイクロソフト社の批判をすることもある。しかし、それが彼の信頼性を高めている要因である。
Scoble氏の成功に啓発されて、他の会社の重役達も自分のブログを開設し始めた。例えばSun MicrosystemsのJonathan Schwartz氏。彼はブログの中で自社の将来起こりうる合併について自分の意見を述べ、HPやIBMなど競合会社に対して警笛を鳴らしている。
Novell社のPRマネージャーであるBruce Lowry氏は、自社の重役達にもブログを開設してもらうことを望み、さらに「“退屈なプレスリリース”は、企業の噂や個人の意見などの企業広報問題に対しては全く不適当だ」と述べている。そして、「10年以内にプレスリリースは完全にブログに入れ替わる」とコメントしている。
しかし、Scoble氏は「ブログが自発的な“散文”であるのに対し、企業メッセージをコントロールすることができるプレスリリースも重要である」と述べている。Sun MicrosystemsのSchwartz氏も同様に「PRの終焉ではない。古い体質のPR部門の終焉である」と慎重な意見である。そして「重要なのは信頼と評判を築くこと」と述べる。
Stanford Law SchoolのJoseph Grundfest氏は「ブログが混迷を来たすのは時間の問題である」と述べる。「人々はメディアとしてのブログの迅速さとクールさに惹かれているが、それがときに後悔を引き起こす」とコメントしている。この不安は企業内部のcompliance lawyers(企業法令の遵守を専門とする弁護士)が企業のブロガー達に目を光らせることを促している。
このことにより、企業内のブロガー達は“口封じ”に遭い、彼らのブログは“退屈な”プレスリリースのようになってしまうのだろうか。Scoble氏は「理論上はマイクロソフトの企業観と私自身の企業観の違いは軋轢を生み出すかもしれない。けれどもそのとき何が起こるかはわからない」と述べている。彼は企業の些細なことだけに批判をし、大勢には同意するようになってしまうのだろうか?しかし、彼のブログのPV、名声、影響力を考えると、彼の勢いを止めること、そして、あらゆるブロガー達の“散文”への“口封じ”をするのは日に日に難しくなってきているかもしれない。
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